既刊書

アンリ・ルソー 本表紙

アンリ・ルソー

ドーラ・ヴァリエ 著

五十嵐賢一 訳


原書: Dora Vallier, “Henri Rousseau”1961, Framallion,Paris. 
総頁数: 316頁。掲載図版―口絵カラー図版16、モノクロ図版59 、A5版、上製
発行年月日: 2014年8月1日
ISBN: 978-4-921152-05-5
定価: 3241円+税

 

解説

 “税関吏”アンリ・ルソーが1910年、66歳でこの世を去ってから1世紀が経つ。彼が生き、画家として過ごした時代は、セザンヌ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、ファン・ゴッホとほぼ軌を一にしている。しかし、高等教育も、ましては美術教育も受けたことがなく、40歳にしてパリ税関の下級官吏の職を辞し、独学で絵を描き始めた彼は、そうした当時流行の印象派や、キュビスムやフォーヴィスム等のアバンギャルドの画家たちとは交流を持たず、自らの筆にのみまかせて描いた。その結果として、当時の画壇はおろか、ヨーロッパの絵画史上にもたぐいまれな独特な彼の絵が生まれた。しかしまたそのゆえに、彼の死後、その生涯も芸術もほとんど人に知られぬままに忘却の彼方に沈んだ。彼の死後半世紀ばかりを経たのち、やっとその芸術は人の知るところとなり、その芸術を再検証し、あわせて彼の生涯の跡を確証する機運が高まった。従来の、憶測や曖昧な記憶に頼る研究方法を脱し、近代的な研究方法にもとづいてルソーの生涯と芸術を検証したのが本書である。本書以後、数々のルソー研究が発表されたが、彼の生涯と芸術を科学的実証によって明らかにし、加えて著者の卓見によってその真の姿を描き出した点で、本書を凌駕するものはないように思われる。

著者紹介

ドーラ・ヴァリエ Dora Vallier

1921年ブルガリア生まれのフランス人美術史家、美術評論家。ビザンチン美術の研究で博士号を取得。パリの美術史家、批評家、作家、コレクター、さらには出版者として名高いクリスティアン・ゼルヴォスが1926年に創刊した豪華な美術誌「カイエ・ダール」の1953年の号に自筆の記事が掲載される。翌1954年以後、ジャック・デユパンの跡を継いで、「カイエ・ダール」の現代美術部門を担当。ゼルヴォスから彼と関係の深い現代画家たちとの接触を一手にゆだねられ、彼女が行ったブラック、レジェ、シャック・ヴィヨン、ブランクーシ、ミロ等とのインタビューの記事が「カイエ・ダール」に次々に掲載される。1959年にはセルジュ・ポリアコフの、1961年にはヴィヨンのモノグラフを出版する。この同じ1961年にフラマリオン社から本書であるアンリ・ルソーのモノグラフを出版し、その後「カイエ・ダール」を去る。以後、アメリカの美術雑誌「アートニュース・アンド・レヴューズ」に寄稿したり、美術誌「L’OEIL」(「目」)や「XXème siècle」(「20世紀」)に協力し、また、『アンリ・ルソー全画集』(1970年)、『ブラック版画作品カタログレゾネ』(1982年)、『ビエラ・ダ・シルヴァ』(1982年)等、数多くの著作を執筆する。1982年にフランスのリーヴル・ド・ポッシュ叢書から出版した『抽象芸術』は特に国際的評価が高い。1991年に『京都のあの橋』を出版。1997年に死去。

訳者紹介

五十嵐賢一 IGARASHI Kenichi

1943年生まれ。フランシス・ベイコン、ピカソ、セザンヌ等、ヨーロッパの近・現代美術、サミュエル・ベケット等のヨーロッパ近・現代文学の分野で、フランス語、英語の翻訳を手がける。訳書に以下のものがある。

  • ミシェル・アルシャンボー 『フランシス・ベイコン―対談』(三元社、1998年)
  • フィリップ・ソレルス 『フランシス・ベイコンのパッション』(三元社、1998年)
  • ディディエ・アンジュー、ミシェル・モンジョーズ 『フランシス・ベイコン―離種した人間の肖像』(書肆半日閑、2000年)
  • フィリップ・ソレルス 『セザンヌの楽園』(書肆半日閑、2001年)
  • フィリップ・ソレルス 『ピカソ、ザ・ヒーロー』(2002年、書肆半日閑)
  • アンドリュー・シンクレア 『フランシス・ベイコン―暴力の時代のただなかで、絵画の根源的革新へ』(書肆半日閑、2005年)
  • イェルク・ツィンマーマン 『フランシス・ベイコン―磔刑』(共訳、三元社、2006年)
  • ディアドリィ・ベァ 『サミュエル・ベケット―ある伝記』(書肆半日閑、2009年)
  • デイヴィッド・シルヴェスター 『回想フランシス・ベイコン』(書肆半日閑、2010年)
  • ジョン・ラッセル 『わが友フランシス・ベイコン』(三元社 2013年)

 その他、「書肆半日閑」の代表として出版活動を行い、また、俳号五十嵐踏青として俳人しても活動し、現在まで句集11巻を上梓する。